IWCポルトギーゼオートマティック40の実機評価。厚さは許容範囲か

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デスクに置かれたIWCポルトギーゼオートマティック40
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「憧れのポルトギーゼ、でも自分の手首には大きすぎるかも……」

そんな長年の悩みに対するIWCからの回答が、2020年に登場した「ポルトギーゼ・オートマティック40」でした。伝統的なデザインコードを継承しながら、現代的な40mmサイズへと凝縮されたこのモデル。しかし、スペック表を見て「おや?」と思った方も多いのではないでしょうか。3針のドレスウォッチでありながら、厚さは12.3mm。これは競合他社と比べても、決して薄いとは言えません。果たしてこの厚みは、スーツスタイルにおいて許容範囲なのでしょうか。また、自社製ムーブメント特有の「音」や、純正バックルの装着感など、カタログには載らないリアルな使用感も気になるところですよね。

この記事では、長年「王道を避ける美学」を掲げ、数々の名門時計を愛用してきた私が、ポルトギーゼオートマティック40の実機評価を徹底的に行います。独自の視点から、この時計が持つ真の価値と、購入前に知っておくべき注意点を包み隠さずお伝えします。

この記事を読むと分かること
  • 12.3mmの厚みがスーツスタイルに与える実際の影響と許容範囲
  • 自社製ムーブメントCal.82200の性能とペラトン機構特有の音の正体
  • 純正Dバックルの装着感を改善するための具体的な裏技
  • ジャガールクルトやロレックスと比較した際のIWCならではの強み

「厚みがあるからこそIWCらしい」そう感じられる理由が、きっと見つかるはずです。それでは、結論としてこのモデルが「買い」なのかどうか、詳しく紐解いていきましょう。

目次

ポルトギーゼオートマティック40の実機評価と厚さの真実

スーツを着た男性の手首にあるポルトギーゼ40の側面
image: クロノジャーニー作成

実際に腕に乗せてみないと分からない、サイズ感やムーブメントの挙動といった物理的な特性について深掘りしていきます。数値上のスペックだけでは見えてこない、肌で感じる「質感」や「音」、そして光の反射によって変わる表情について、マニアックな視点で詳しく解説します。

40mm径と12.3mmの厚さはスーツに収まるのか

時計選びにおいて、デザイン以上に重要なのが「サイズ感」です。特にポルトギーゼオートマティック40に関しては、購入を検討する多くの人が「厚さ12.3mm」という数字に引っかかりを感じていることでしょう。結論から申し上げますと、「数値ほどの厚みは感じないが、薄型ドレスウォッチと同じ期待をしてはいけない」というのが私の率直な評価です。

40.4mmという「黄金比」の恩恵

まず、直径40.4mmというサイズについてですが、これは現代のメンズウォッチにおける「黄金比」とも言える絶妙な大きさです。かつての42.3mm径「7デイズ」は、その圧倒的な存在感ゆえに、手首周り16.5cm前後の平均的な日本人男性が着用すると、ラグが手首の幅からはみ出しそうになることがありました。いわゆる「時計に着けられている」状態です。

しかし、この40mmモデルはラグ・トゥ・ラグ(縦の全長)が約49mmに抑えられています。さらに、ラグの形状が人間工学に基づいて緩やかに湾曲しているため、手首への吸い付きが格段に向上しました。実際に着用してみると、手首の上に「ポン」と乗っているのではなく、「ピタッ」と収まっている感覚が得られます。正面から見た時のバランスは、ビジネスシーンにおいても過度な主張をせず、非常に知的でスマートな印象を与えてくれます。

「12.3mm」は本当に厚いのか?

さて、問題の厚さです。比較対象としてよく挙げられるジャガー・ルクルトの「マスター・コントロール・デイト」の厚さは約8.78mm。これと比較すると、IWCは3.5mm以上も分厚いことになります。3.5mmというのは、時計の世界では巨大な差です。

IWCのケースデザインは、側面が垂直に切り立った「シリンダー形状」に近いフォルムをしているため、視覚的にも金属の塊感、いわゆる「コロッとした印象」を受けやすい特徴があります。しかし、これが致命的な欠点かというと、そうではありません。

IWCはベゼル部分に巧妙な段差を設け、ポリッシュ仕上げで角を落とすことで、シャツの袖口への「滑り込み」を良くする工夫を凝らしています。実際に私が普段着用しているオーダーシャツ(カフス周りは標準的なゆとり)で試したところ、引っかかることなくスムーズに袖の中に収まりました。ただし、カフスをかなりタイトに絞っているシャツや、硬い糊付けをしたシャツの場合は、時計の厚みが干渉して袖口がもたついたり、時計が袖の外に出てしまったりする可能性は否定できません。

ですが、私はあえて言いたいのです。この「程よい厚みと重量感」こそが、IWCというブランドのアイデンティティであると。IWCは繊細で華奢な宝飾時計を作るブランドではなく、「エンジニアリング」に基づいた堅牢な実用時計を作るメーカーです。この厚みは、中に搭載された堅牢なペラトン機構や、耐衝撃性を考慮した設計の結果であり、頼り甲斐の証でもあります。薄さを極めた時計も美しいですが、IWCの時計が持つ「道具としての質感」は、この厚みがあってこそ感じられる魅力なのです。

MOMOMO
薄いだけが良い時計じゃないんだね。この「塊感」が逆に所有欲を満たしてくれるかも!

Ref.325へ原点回帰したデイトなしのデザイン

このモデル最大の特徴にして、多くのファンが喝采を送ったポイント。それはなんといっても「日付表示(デイト)」を排除した潔いデザインにあります。

ポルトギーゼ40の文字盤6時位置の拡大写真
image: クロノジャーニー作成

歴史的傑作「Ref.325」のDNA

時計の歴史を紐解くと、ポルトギーゼの始祖である1939年の「Ref.325」に辿り着きます。当時、ポルトガルの商人から「マリンクロノメーター級の精度を持つステンレス製の腕時計」を依頼されたIWCは、精度を出すために懐中時計用のキャリバー74(後に98)を腕時計ケースに転用しました。その結果生まれたのが、スモールセコンドを備えたシンプルな3針時計でした。

ポルトギーゼオートマティック40は、まさにこのオリジナルの精神を現代に蘇らせた「正統後継機」と言えます。7デイズ(Ref.5007)にはパワーリザーブ表示とデイト表示があり、クロノグラフ(Ref.3716)には積算計があります。これらも素晴らしいデザインですが、オリジナルが持っていた「静寂」や「余白の美」とは少し異なります。

シンメトリーが生み出す究極の美学

多くの実用時計が、市場のニーズに合わせて利便性の高いデイト機能を搭載します。しかし、ダイヤルデザインの観点から見ると、3時位置や6時位置に空けられた日付窓は、時に完璧なバランスを崩す「ノイズ」となり得ます。特にアラビア数字のインデックスを採用している場合、日付窓のために数字が削られたり、省略されたりするのはデザイン上の惜しい妥協点です。

オートマティック40では、デイトを排除したことで、6時位置のスモールセコンドが完璧な調和を保ち、文字盤全体の完全なシンメトリー(左右対称性)が実現されました。立体的に植字されたアラビア数字のアプライドインデックス、そして職人の手によって美しく仕上げられたリーフ針が、余計な要素のない広々とした文字盤の上で、まるで芸術品のように際立っています。

実用面でも、デイトがないことによるメリットは意外と大きいです。久しぶりに時計を着ける際、時間を合わせるだけで済みます。「午前午後の区別を気にして日付を早送りする」というあの面倒な作業から解放されるのです。「忙しい朝、手に取ってリューズを数回巻き、時刻を合わせるだけでサッと出かけられる」。このスマートさは、複数の時計を使い分ける愛好家ほど、その快適さを実感できるはずです。

自社製ムーブメントCal.82200のスペックと実力

Cal.82200のムーブメントとペラトン自動巻き機構のアップ
image: クロノジャーニー作成

外装の美しさだけでなく、その内側に秘められたメカニズムもこの時計の大きな魅力です。搭載されているのは、IWCが開発した自社製キャリバー「82200」。かつてのエントリーモデル(ポートフィノの一部など)ではセリタやETAベースの汎用ムーブメントが使われることもありましたが、このモデルではしっかりとマニュファクチュールの魂が込められています。

  • ペラトン自動巻き機構: IWCの技術的象徴である高効率な巻き上げシステム
  • セラミックパーツの採用: 摩耗しやすい爪やカムに酸化ジルコニウムセラミックを使用
  • パワーリザーブ: 約60時間の駆動時間を確保
  • 振動数: 28,800振動/時(4Hz)のハイビート設計

伝説の「ペラトン機構」とその進化

IWCを語る上で欠かせないのが、1950年代にアルバート・ペラトン氏が開発した「ペラトン自動巻き機構」です。これは、ローターがどちらの方向に回転しても、その動きを無駄なく主ゼンマイの巻き上げエネルギーに変換する画期的なシステムです。しかし、この機構には弱点がありました。それは、爪とホイールが常に噛み合うことで発生する「摩耗」です。

Cal.82200では、この弱点を現代の素材技術で見事に克服しています。最も負荷のかかる巻き上げ爪とカムに、ダイヤモンドに次ぐ硬度を持つ「ブラックセラミック」を採用したのです。シースルーバックから覗くと、金色の豪華なローターの下に、黒く光る小さなパーツが見えるはずです。これこそが、IWCの技術革新の証であり、このムーブメントが事実上の「摩耗フリー」を実現し、長期間にわたって安定した性能を発揮できる理由なのです。

パワーリザーブと精度の実力

パワーリザーブは60時間です。最近の競合他社(ロレックスの70時間、グループ内のジャガー・ルクルトやパネライの70時間〜3日間など)と比較すると、スペック競争ではやや見劣りするかもしれません。しかし、実用上はどうでしょうか。金曜日の夜に時計を外しても、月曜日の朝まで動いている計算になります(約2日半)。いわゆる「ウィークエンド・プルーフ」としては合格ラインです。

また、精度に関してもIWCは非常に厳格です。公式なCOSC認定こそ受けていませんが、社内基準として厳しい精度管理を実施しています。私の経験上も、このキャリバーは姿勢差による精度の乱れが少なく、非常に安定した時を刻んでくれます。40mmというコンパクトなケースに、これほど堅牢で高精度なムーブメントを押し込んだことこそ、12.3mmという厚さの正当な理由なのです。

ペラトン自動巻き特有のローター音は気になるか

購入を検討している方が、ネット上のレビューや掲示板で最も頻繁に目にする懸念点が、「ローターの回転音がうるさいのではないか?」という点ではないでしょうか。高い買い物ですから、こうした感覚的なデメリットは非常に気になりますよね。これについては、忖度なしに事実をお伝えしましょう。

「静かな部屋で手首を振れば、確実に音は聞こえます」

これは故障や不具合ではなく、ペラトン機構の構造上の特性によるものです。ローターが回転する際、「シュルシュル」「ジージー」といった独特の回転音がします。また、ローターが勢いよく回る際には、手首にその遠心力や振動(ウォブル)が伝わってくることもあります。これは、セラミックという非常に硬質な素材同士が接触していることや、ケース内部の空間が音を反響させやすい構造になっていることが原因と考えられます。

「騒音」か「鼓動」か

ロレックスのように、車軸に潤滑油を封入して無音に近い静粛性を実現している時計から乗り換えると、最初は「おや?音が大きいな」と驚くかもしれません。しかし、これをネガティブな「ノイズ」と捉えるか、機械式時計が懸命にエネルギーを蓄えている「生命感(鼓動)」と捉えるかで、評価は180度変わります。

私のような機械式時計愛好家にとっては、ふとした瞬間に手首から伝わるこの振動こそが、「今、ペラトンの爪がしっかりとホイールを回しているな」という実感に繋がり、むしろ愛着の湧くポイントでもあります。もちろん、日常のオフィス環境や街中、会話をしている最中などであれば、全く気にならないレベルの音量です。図書館のような極限の静寂環境で耳を澄ませば聞こえる、という程度ですので、神経質になりすぎる必要はありません。むしろ、この音こそが「IWCを着けている」という密かな優越感を与えてくれるはずです。

EMIRI
なるほど、音がするのは不具合じゃなくて「仕様」なんだね。生き物みたいで可愛いと思えるかも!

サントーニ製ベルトの質感と購入直後の硬さについて

ポルトギーゼオートマティック40の魅力を高めているもう一つの要素が、標準装備されているレザーストラップです。これには、イタリアの高級靴ブランド「サントーニ(Santoni)」社製の特注アリゲーター・ストラップが採用されています。

サントーニ製アリゲーターストラップとDバックル
image: クロノジャーニー作成

芸術的な色彩と質感

サントーニといえば、職人が手作業で色を塗り重ねる「パティーヌ」技法で有名ですが、その美学はこの時計ベルトにも遺憾なく発揮されています。単調な黒や茶色ではなく、光の当たり方によって微妙に表情を変える深みのある色合いは、間違いなく業界トップクラスの質感です。そして、時計を外した時にだけ見える裏面の鮮やかなオレンジ色のライニング(裏地)。この「見えない部分へのこだわり」が、所有者のダンディズムを刺激し、満足度を大きく引き上げてくれます。

「硬さ」という通過儀礼

しかし、その上質な作りゆえに、一つだけ覚悟しておかなければならない点があります。それは「新品時はかなり硬い」ということです。肉厚でしっかりとしたレザー、そして表面の艶やかな仕上げ処理の影響で、購入直後はまるで板のように硬く感じるかもしれません。手首のカーブに馴染まず、時計本体が浮いてしまったり、四角いシルエットになってしまったりすることがあります。

「サイズが合わないのかな?」と不安になるかもしれませんが、どうかご安心ください。これは良質な革製品特有の初期状態です。無理に折り曲げたりせず、毎日着けて体温と湿気を与えていけば、2週間から1ヶ月ほどで驚くほどしなやかに馴染んできます。自分の手首の形に合わせて革が育っていく過程、これこそがレザーストラップならではの楽しみです。最初の硬さは、これから長い付き合いになる相棒との「挨拶」のようなものだと思って、じっくりと育ててあげてください。

純正Dバックルが痛い時の効果的な対処法

装着感に関して、もう一つ避けて通れない、そして購入者を悩ませる大きなトピックがあります。それが「純正Dバックル(観音開きタイプ)」の装着感問題です。IWCのステンレスモデルには、高級感のあるフォールディング・バックルが標準装備されていますが、このバックルの金属パーツの形状が、人によっては手首に食い込んで痛みを伴うケースがあるのです。

なぜ「痛い」のか?

IWCのDバックルは、折りたたまれる金属プレートの湾曲が比較的強く設計されています。手首の断面形状が丸に近い人は問題ないのですが、平たい形状の人や、手首が細め(16cm以下)の人の場合、湾曲した金属パーツの端が手首の内側の骨や腱に当たり、長時間着用していると赤くなってしまうことがあります。

魔法の解決策「逆付け」

「せっかく高い時計を買ったのに、痛くて着けられない…」と絶望する前に、ぜひ試していただきたい裏技があります。それは、「ストラップの6時側と12時側を逆に取り付ける(通称:逆付け)」という方法です。

  • 通常の腕時計は、6時側に穴の空いた長いベルト(剣先側)、12時側にバックルのついた短いベルト(親側)を取り付けます。これを左右入れ替えて装着します。
  • するとどうなるか? バックルの金属パーツが手首の下に来る位置が微妙にズレるのです。これにより、金属が骨に当たらなくなり、手首の肉厚な部分に収まるようになるため、痛みが劇的に改善するケースが非常に多いです。

実はこの「逆付け」、IWCのブティックでも装着感の調整として公式に提案されることがあるテクニックです。見た目の違和感はほとんどありません(剣先が自分の方を向くようになりますが、パテック・フィリップなどは元々この向きを採用しています)。

もしそれでも合わない場合は、バックル自体をあえてクラシックな「ピンバックル(尾錠)」に交換するのも一つの手です。Dバックルよりも厚さが減り、デスクワーク時に机に当たってカチカチ鳴るストレスも軽減されます。「高級なDバックルを外して、あえてシンプルな尾錠にする」。これこそ、使い勝手を熟知した「通」な選択肢として、私は強くおすすめしたいカスタマイズです。

ポルトギーゼオートマティック40を競合モデルと徹底比較

時計店でポルトギーゼ40を検討する男性
image: クロノジャーニー作成

腕時計選び、特に100万円前後の予算となると、比較検討は避けて通れません。IWCポルトギーゼオートマティック40は素晴らしい時計ですが、市場には他にも魅力的な選択肢が存在します。よく比較対象となるライバル機との違いを明確にし、同じ予算を投じるなら、なぜ他ブランドではなくIWCを選ぶべきなのか、資産価値や所有満足度の観点から多角的に分析します。

ジャガールクルトのマスターコントロールとの違い

ポルトギーゼ40と薄型時計の厚みを比較したイメージ
image: クロノジャーニー作成

「IWC ポルトギーゼ・オートマティック40」の購入を検討する際、最も強力かつ悩ましいライバルとなるのが、同じリシュモングループに属するジャガー・ルクルト(JLC)の傑作、「マスター・コントロール・デイト」でしょう。どちらも歴史あるマニュファクチュールの手による、実用的なステンレス製3針モデル。価格帯も非常に近いため、この二択で迷宮入りする方は後を絶ちません。

比較項目IWC ポルトギーゼ40JLC マスター・コントロール
ケース厚12.3mm約8.78mm
デザイン特性立体的・ややスポーティ
(アラビア数字・リーフ針)
平面的・完全なドレス
(くさび型・ドーフィン針)
ムーブメントCal.82200(ペラトン式)
堅牢性重視
Cal.899(シリコン脱進機)
薄型・先進性重視
着用シーンビジネス〜週末のカフェ
(デニムもOK)
ビジネス〜冠婚葬祭
(フォーマル寄り)

決定的な違いは「厚さ」と「キャラクター」

両者を分ける最大のポイントは、やはり「薄さ」です。ジャガー・ルクルトは約8.8mmという驚異的な薄さを実現しており、袖口への収まり具合や、フォーマルな場での控えめなエレガンスに関しては、IWCよりも一枚上手です。「時計は薄ければ薄いほど良い」というクラシックな価値観をお持ちの方には、間違いなくJLCが刺さるでしょう。

対してIWCの強みは、その厚みが生み出す「単体としての存在感」と「顔の良さ」にあります。JLCのデザインは極めてストイックで保守的ですが、悪く言えば「地味」に映ることもあります。一方、ポルトギーゼオートマティック40は、立体的に浮き上がったアラビア数字インデックスや、艶めかしいリーフ針の造形が、見るたびに視覚的な喜びを与えてくれます。

また、ファッションへの適応力という点でもIWCに分があります。JLCはスーツやジャケットスタイルには完璧ですが、Tシャツやデニムといったラフな格好に合わせると、時計だけが浮いてしまうことがあります。その点、ポルトギーゼオートマティック40は、そのボリューム感とスポーティな出自(元々マリンクロノメーターの系譜)のおかげで、カジュアルダウンした服装にも違和感なくマッチします。「特別な日のための時計」ならJLC、「オンオフ問わず毎日使える相棒」ならIWC。あなたのライフスタイルがどちらに近いかで選ぶのが正解です。

ロレックスのデイトジャスト41と比較する資産価値

「100万円以上の予算を投じるなら、リセールバリューの良いロレックスの方が賢いのでは?」

これは、高級時計を購入する際に誰もが一度は頭をよぎる「悪魔の囁き」です。確かに、ロレックスのデイトジャスト41(特にステンレスのオイスターブレスやジュビリーブレスモデル)は、資産価値という点では圧倒的です。購入してすぐに手放しても定価に近い価格、あるいはプレ値がつくことさえあります。対してIWCは、購入した瞬間に中古市場での価値は定価の6〜7割程度になります。

「資産」を買うか、「教養」を買うか

しかし、ここで一度立ち止まって考えてみてください。「みんなが着けている時計」で、あなたの個性や美学は表現できるでしょうか?

ロレックスは間違いなく実用時計の最高峰であり、世界中で換金可能な「通貨」のような側面があります。しかし、その圧倒的な知名度ゆえに、「とりあえず高い時計を買った人」「資産価値を気にしている人」というバイアスを持たれてしまうリスクもゼロではありません。特にビジネスシーンにおいて、相手が時計に詳しい場合、ロレックスは「無難な選択」と見なされることがあります。

一方で、あえてこの価格帯でIWCポルトギーゼオートマティック40を選ぶということは、「流行りや換金率に流されず、自分の審美眼でモノを選べる人」という知的なメッセージを周囲に発信することになります。ポルトギーゼは「時計好きが選ぶ時計」としての地位を確立しており、着用しているだけで「お、分かってるね」という無言のコミュニケーションが成立することがあります。資産としての金銭的価値(リセール)はロレックスに軍配が上がりますが、所有する喜びや、自身のブランディングとしての「感性的な価値」においては、IWCはロレックスにはない独自の輝きを放っています。

7デイズやクロノグラフではなく40mmを選ぶ理由

IWCというブランドの中で心が決まったとしても、次に待っているのは「ポルトギーゼ・ファミリー内での争い」です。特に、ブランドのアイコンである「クロノグラフ(Ref.3716)」や、7日間のロングパワーリザーブを誇る「オートマティック42(通称7デイズ)」は強力なライバルです。

7デイズ(42.3mm)との比較:サイズ感の正義

7デイズは、その巨大なムーブメントと圧倒的な存在感でIWCの技術力を象徴するモデルです。しかし、42.3mmという径と14mmを超える厚さは、正直なところ日本人男性の平均的な手首には「大きすぎる」ケースが多いのが現実です。ラグが手首から浮いてしまっては、どんなに高価な時計も美しくは見えません。「憧れていたけど、試着したら大きすぎて断念した」という声をこれまで何度聞いてきたことか。

ポルトギーゼオートマティック40は、7デイズが持つ「高級感のある外装」や「アラビア数字の気品」をそのままに、日本人の腕にジャストフィットするサイズへと凝縮したモデルです。この「凝縮感」こそが、40mmモデルの最大の魅力です。

クロノグラフ(41mm)との比較:純粋性の勝利

一方、クロノグラフはデザインの完成度が非常に高く、サイズも41mmと着けやすいモデルです。しかし、クロノグラフ(ストップウォッチ機能)が付いているため、文字盤上には積算計やプッシュボタンがあり、どうしてもスポーティで計器的な印象が強くなります。また、ムーブメントの設計思想としては汎用機(バルジュー系)をベースに自社化したものとなります。

その点、ポルトギーゼオートマティック40は、最初からこの時計のために設計された純粋な自社製ムーブメントを搭載し、機能も時刻表示のみに絞り込んでいます。シンプルゆえに飽きが来ず、年齢を重ねて白髪になっても似合う「普遍的な美しさ」。一生モノとして長く付き合うなら、クロノグラフよりもこの3針モデルの方が、より深い満足感を得られる可能性が高いと私は考えています。

価格改定後の定価と中古市場でのリセールバリュー

昨今の円安やスイスフラン高、原材料費の高騰により、IWCも度重なる価格改定(値上げ)を行っています。2020年の発売当初は約80万円だった定価も、2025年現在では100万円の大台が見える、あるいは超える価格帯まで上昇しました。もはや「ミドルレンジ」とは言えない高級時計の仲間入りを果たしています。

電卓やグラフと共に置かれたポルトギーゼ40
image: クロノジャーニー作成

2025年時点での市場動向

これに伴い、中古市場の相場も変動していますが、ロレックスのような異常な高騰(バブル)とは異なり、IWCの相場は比較的健全です。2025年現在の傾向としては、状態の良い中古品(高年式・付属品完備)であれば、定価の60%〜70%程度で販売されていることが多いようです。買取価格(リセール)としては定価の40〜50%程度を見ておくと良いでしょう。

もし「少しでもお得に手に入れたい」と考えるなら、信頼できる中古時計店で「未使用に近い」個体を探すのが最も賢明な戦略です。IWCには「My IWC」というプログラムがあり、購入後にオンライン登録することで、国際保証期間を従来の2年から8年まで延長することができます。

中古品であっても、最初のオーナーが登録していればその保証期間は引き継がれます。つまり、高年式の中古個体を選べば、新品と変わらない長い保証期間の恩恵を受けつつ、数十万円安く手に入れることが可能なのです。

買って後悔しないために確認すべきデメリット

どんなに素晴らしい時計にも、弱点は必ずあります。購入後に「こんなはずじゃなかった」と後悔しないよう、あえて厳しい視点でデメリットを挙げておきます。

  • 防水性は3気圧(30m)のみ:これが最大の弱点かもしれません。3気圧防水は、日常生活での汗や手洗いの飛沫程度なら耐えられますが、時計を着けたままシャワーを浴びたり、プールに入ったりすることは厳禁です。また、突然のゲリラ豪雨などでずぶ濡れになった場合も浸水のリスクがあります。夏場や雨の日には少し気を使う必要がある「繊細な相棒」であることを理解しておく必要があります。
  • 磁気帯びのリスク:IWCといえば「インヂュニア」のような耐磁時計が有名ですが、このポルトギーゼには軟鉄製インナーケースは入っていません(シースルーバックを採用しているため)。現代社会はスマートフォン、タブレット、バッグのマグネットなど、磁気の発生源で溢れています。これらに密着させると磁気帯びして精度が狂う可能性があります。保管場所に気をつける習慣が必要です。
  • やはり厚みはある:記事の前半でも触れましたが、12.3mmは決して薄くありません。特に冬場、ニットやタイトなアウターを着る際、袖口での干渉がストレスになる可能性はゼロではありません。購入の際は、普段よく着る服装でお店に行き、実際の袖通りを確認することを強く推奨します。

総括:ポルトギーゼオートマティック40は誰におすすめか

ここまでIWCポルトギーゼオートマティック40について、様々な角度から徹底的に検証してきました。結論として、この時計は全ての人に手放しでおすすめできる「万能な優等生」ではありません。しかし、その特性を理解し、愛せる人にとっては、替えの効かない唯一無二の存在となるでしょう。

MOMOMO
最後に、今回の記事内容のポイントをまとめます。
  • 40mm径は日本人の手首に最適だが、12.3mmの厚さには「IWCの堅牢性」と割り切りが必要
  • デイトなしのシンメトリーなデザインは、Ref.325への敬意と究極の美しさを体現している
  • 自社製Cal.82200はペラトン機構の耐久性と巻き上げ効率を両立した現代の名機
  • ローターの作動音は確実に聞こえるが、それは機械式時計の「鼓動」として楽しむべき要素
  • 純正ベルトの硬さやバックルの痛みは、「エイジング」や「逆付け」で解決可能
  • JLCのような薄さやロレックスのような換金率はないが、独自の「知的な色気」がある
  • 防水性や耐磁性には配慮が必要だが、日常使いで致命的な欠点にはならない
  • 7デイズの高級感とクロノグラフの着けやすさを両立した、ポルトギーゼの「真の完成形」
  • 中古市場では定価より安価に入手可能で、My IWCによる保証継承も期待できる
  • 「みんなが選ぶブランド」ではなく「自分の意志で選ぶブランド」としての満足感は絶大
  • スーツスタイルはもちろん、大人のカジュアルスタイルを格上げするパワーがある
  • メンテナンスコストは掛かるが、それに見合うだけの長い寿命を持っている
  • 流行に左右されないデザインは、次世代に受け継ぐ「一生モノ」として相応しい
  • 所有することで、時間を確認するたびに背筋が伸びるような高揚感が得られる
  • 結果として、100万円を投じる価値は十分にある「隠れた名作」である

今回は、IWCポルトギーゼオートマティック40の実機評価について、厚さや装着感の真実を中心にお伝えしました。スペック上の数値だけでは測れない「道具としての美しさ」と、歴史的背景に裏打ちされた「品格」を兼ね備えたこのモデル。迷っているなら、ぜひ一度ブティックでその厚みと重みを体感してみてください。きっと、その確かな存在感があなたの腕と心にフィットするはずですよ。

もし、他のブランドとも比較検討したい場合は、以下の記事も参考になるかもしれません。

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