クロノグラフ、手に入れましたか。かっこいいですよね。でも、ふと気づくと、一番目立つ中央の秒針がピタッと止まっている。
せっかくの機械なのに「なんだか時計が止まっているみたいで寂しいな…」と感じたこと、ありませんか? あのスイープ運針を常に眺めていたくて、「クロノグラフの秒針を動かしっぱなしにしたい」と考えたことがあるのは、あなただけじゃないですよ。
でも、その一方で「ストップウォッチを動かし続けないほうがいい理由って何だろう?」「故障や負荷が怖い」という不安もよぎります。クォーツ式なら電池切れが早くなるだけ? いやいや、放置した結果の液漏れが怖いですよね。機械式なら? 「水平クラッチとは何か」「垂直クラッチのメリットは?」という機構の違いが関わってきます。さらには、その見分け方や、リセット時の負荷も気になるところ。
この「動かしっぱなし問題」、実は時計の設計思想によって結論がまったく異なります。この記事で、その技術的な結論にバシッとお答えしますね。
- クロノグラフ秒針を動かしたくなる心理的な理由
- 動かしっぱなしがNGな「水平クラッチ」の仕組み
- 動かしっぱなしOKな「垂直クラッチ」の仕組み
- クォーツ式クロノグラフの隠れたリスク
「じゃあ、結局わたしの時計はどっちなの?」その疑問、機構の違いからスッキリ解決しましょう。
クロノグラフ秒針動かしっぱなしがNGな理由

なぜ「動かしっぱなしはダメ」と言われることが多いのか。その技術的な根拠と、クォーツ式・機械式それぞれのリスクを見ていきましょう。
なぜ中央の秒針を動かしたくなるのか
この問題の根っこにあるのは、多くの場合「性能」ではなく「見た目」の問題です。
そもそもクロノグラフ(ストップウォッチ機能)って、男心をくすぐるロマンの塊ですよね。複雑な文字盤、複数のインダイヤル、そして2時位置と4時位置に配置されたプッシュボタン。もう、それだけで「メカを操ってる感」があって最高です。
でも、いざ日常で使おうとすると、多くのオーナーがひとつのジレンマにぶつかります。
それは、「一番目立つ針が、止まっている」という事実。
一般的なクロノグラフって、文字盤のど真ん中にある一番長くて目立つ針が、クロノグラフ秒針(ストップウォッチ用の針)ですよね。そして、普段の時間を刻む秒針(スモールセコンド)は、6時や9時の位置にある小さなサブダイヤル(インダイヤル)で控えめに動いています。
オーナー心理としては、やっぱり「一番目立つ針に動いていてほしい」わけです。特に機械式時計の「チチチチ…」と滑らかに動くスイープ運針は、時計の「鼓動」そのもの。それをずっと眺めていたいんです。
中央の針がピタッと12時位置で静止している状態は、なんだか時計が「死んでいる」ように見えてしまって、愛着が湧きにくい…。「せっかくの高級時計なのに、なんだか寂しい」と感じてしまうんです。
EMIRIこの「中央の針を動かしたい」という欲求は、時計に「生命感」を与えたいという、極めて美的な、そして人間的な心理から来ています。スモールセコンドの小さな針がいくら頑張って動いていても、主役であるべきセンターの針が止まっていると、どうにも「間が持たない」と感じるんですよね。
だからこそ、「ストップウォッチ機能、使わないけど、秒針としてずっと動かしちゃダメかな?」という疑問が生まれるわけです。その気持ち、時計好きとしてすごくよく分かります。私もナビタイマーを手に入れた時、そう思いましたから。
でも、その「見た目の満足」を得るために、機械に無理をさせていないか? そこが今回の最大の論点ですよ。
クォーツ式は電池寿命と「液漏れ」に注意


まず、手軽なクォーツ式クロノグラフから見てみましょう。「クォーツなら機械部品の摩耗は関係ないし、動かしっぱなしでも平気でしょ?」と思うかもしれません。
半分正解で、半分は大きな間違いです。
確かに、機械式のような深刻な「摩耗」は心配しなくていいかもしれません。電子制御ですからね。しかし、最大のリスクは「電池消耗」にあります。
クロノグラフ機構を動かすというのは、時計にとって「追加のお仕事」です。当然、消費電力は跳ね上がります。メーカーが想定している標準的な電池寿命(例えば2〜3年)は、クロノグラフを常用しない前提での計算です。
それをあえて動かしっぱなしにすれば、電池寿命が数ヶ月や1年程度に激減する可能性は高いですよ。時計によっては「1/5になる」と明記しているものさえあります。
- 本当に怖いのは「液漏れ」です
- 「電池交換の頻度が上がるだけなら別にいい」と思ったなら、注意が必要です。その考えこそが、時計の寿命を縮める最大の落とし穴なんです
- 一番の危険は、電池寿命が想定外に早まることで、電池が切れた時計をうっかり「放置」してしまうこと
- 切れた電池を長期間放置すると、内部の電解液が漏れ出す「電池の液漏れ」が発生します
- この漏れ出た液体が、クォーツムーブメントの精密な電子回路やコイルに付着したら…? 結果は「ムーブメントの即死」です
回路は腐食し、修理は不可能。ムーブメント丸ごとの交換となり、数千円の電池交換で済むはずだったものが、数万円の高額な修理費がかかります。
クォーツ式を動かしっぱなしにするなら、「電池交換サイン(EOL)を絶対に見逃さず、サインが出たら即交換する」という高度な管理が求められる、と覚えておいてください。



液漏れはマジで怖いですからね…。クォーツの不動原因ナンバーワンかも。
機械式共通の影響:パワーリザーブの低下
では、本題の機械式です。クォーツと違い、機械式は「ゼンマイが解ける力」という有限なエネルギーだけで動いています。
この主ゼンマイの力(トルク)は、時計の「動力源」です。この動力源から、エネルギーはまず「調速機構(テンプ)」に送られ、正確な時を刻むための振動を生み出します。そして、残りのエネルギーが「輪列(歯車群)」に伝わり、時針・分針・秒針を動かします。
時計の基本動作(時・分・秒)を維持するだけでも、ゼンマイの力は常に消費され続けています。ここにクロノグラフを作動させる(スタートボタンを押す)というのは、エンジン(ゼンマイ)に「追加の仕事」を命令するのと同じことです。
クロノグラフ機構を駆動するための、もうひとつの輪列(歯車群)にもエネルギーを分配しなければならなくなるのです。



車で例えるなら…「普通に走行する(時計の基本動作)」だけでもガソリン(ゼンマイ)は消費しますよね。ここでクロノグラフを作動させるのは、「エアコンをガンガンにつけ、ヘッドライトを全灯にし、さらにオーディオのボリュームもMAXにする(追加の仕事)」ようなものです。当然、エネルギー消費(燃費)は悪化します。
結果として、時計の持続時間、つまり「パワーリザーブ」は明確に短くなります。公称48時間のパワーリザーブが、動かしっぱなしにすることで35時間程度に落ち込む、といったことはザラにあります。
特に、ゼンマイの巻き上げが不十分な状態(パワーリザーブが残り少ない時)にクロノグラフを動かすと、動力を両方に回しきれず、時計の心臓部(テンプ)の動き(振り角)が弱くなったり、最悪の場合は時計全体が止まってしまうことさえありますよ。これは、機械式クロノグラフの方式を問わず、共通して発生する現象です。
厳禁な機構「水平クラッチ」とは
機械式クロノグラフには、動力を伝達する方法(クラッチ)に、大きく分けて2つの種類があります。そして、動かしっぱなしが「厳禁」とされるのが、この「水平クラッチ(ホリゾンタル・カップリング)」方式です。
水平クラッチは、伝統的なクロノグラフで長く採用されてきた、歴史ある方式です。「キャリングアーム式」とも呼ばれますね。
非常に多くの時計に搭載されている汎用ムーブメントの王様、「Valjoux 7750(バルジュー7750)」や、その派生機(ETA 7750, セリタ SW500など)が、この水平クラッチを採用しています。おそらく、市場に出回っている機械式クロノグラフの(価格帯にもよりますが)かなりの割合が、この方式かその亜種です。
- 水平クラッチの仕組み:「歯車」が「水平」に動く
- ムーブメントの中には、常時回転している秒針の歯車(四番車)があります
- クロノグラフのスタートボタンを押すと、この四番車に連動する「中間車(クラッチ車)」という歯車が、アーム(キャリングアーム)によって「水平(横)」にスライドします
- そして、クロノグラフ秒針につながる「クロノグラフ車」にガシャッと噛み合います
- 噛み合ったことで動力が伝達され、クロノグラフ秒針が動き出す
この「歯車と歯車が物理的に噛み合う」というのがポイントです。スタート時に、秒針が「カクッ」とわずかに飛ぶ(針飛び・ジャダー)現象が起きやすいのも、この噛み合いの瞬間の衝撃によるものです。
この方式は、構造が比較的シンプルで堅牢、メンテナンスもしやすいという長所があり、長年にわたり愛されてきました。しかし、それはあくまで「設計通りの使い方」をした場合の話。この機構を「動かしっぱなし」にすると、話はまったく変わってきます。
なぜ水平クラッチは摩耗しやすいのか


なぜ水平クラッチを動かしっぱなしにしてはいけないのか?
それは、この機構が「短時間の計測」を前提に設計されているからです。24時間動かし続けることを、設計思想として想定していないんです。
最大の問題点。それは、「軸受け(歯車の軸がはまる穴)に宝石(ルビー)が使われていない箇所がある」ことです。
高級時計は通常、摩擦を減らすために、回転する歯車の軸受け(ホゾ穴)には摩擦係数の低い「ルビー(人工宝石)」を使います。これは時計の常識ですよね。
しかし、Valjoux 7750などの水平クラッチ機構の一部(特に12時間積算計など、クロノグラフ作動時にしか動かない部分)は、設計思想として「どうせ短時間しか動かない」と判断し、コスト最適化のためにあえて宝石を省略しているんです。これは欠陥ではなく、「計測用」として割り切った合理的な設計なんですよ。
- それは「摩耗」ではなく「自傷行為」です
- この設計の時計でクロノグラフを常時作動させると、何が起こるか
- 宝石(ルビー)で保護されていない「金属の軸(ホゾ)」が、「金属の地板(真鍮の穴)」の中で、24時間365日、金属同士が直接こすれ合いながら回り続けることになります
- 想像できますか? 硬い「鋼」の軸が、柔らかい「真鍮」の地板を、ヤスリのように削り続けるんです。これはもう、ムーブメント内部で旋盤加工をしているようなものです
結果として、以下の連鎖的な破壊プロセスが進行します。
- 軸穴(ホゾ穴)がどんどん削られて楕円形に広がっていきます
- 削り取られた微細な金属粉(摩耗くず)がムーブメント全体に飛散します
- その金属粉が、他の正常な歯車や軸受け(ルビーが入っている場所)に入り込み、研磨剤のように働いてムーブメント全体を致命的に汚染し、摩耗させます
もはや「摩耗」なんて生易しいレベルじゃありません。これは「自傷行為」であり、時計の寿命を意図的に縮める「破壊行為」に等しいんです。
こうなると、通常のオーバーホール(分解掃除)では済みません。軸穴が広がってしまった地板や、削れた歯車は「パーツ交換」が必須となります。
標準オーバーホール代(クロノグラフは3針より高い、例えば8万円)で済むはずが、「故障修理」扱いとなり、修理費は標準の数倍(15万、20万…)になるか、最悪修理不能になるリスクさえありますよ。



うわぁ…それは絶対にやっちゃダメなやつですね…知らなかったらやってました。
クロノグラフ秒針動かしっぱなしOKな機構


では、逆に動かしっぱなしが許容される、あるいは推奨される機構とは何でしょうか。それが現代の主流となりつつある「垂直クラッチ」です。
許容される機構「垂直クラッチ」とは
水平クラッチが抱える摩耗や負荷の問題を、工学的に解決したのが「垂直クラッチ(バーティカル・クラッチ)」方式です。
これは主に、比較的新しい設計のムーブメントや、各ブランドが威信をかけた自社製(マニュファクチュール)ムーブメントに採用されています。
- 垂直クラッチを採用する代表的なムーブメント
- ロレックス (Rolex) Cal.4130 / 4131 (デイトナ)
- オメガ (Omega) Cal.9300 / 9900系 (スピードマスター レーシング、シーマスターPOなど)
- ブライトリング (Breitling) Cal.B01 (ナビタイマー、クロノマットなど)
- セイコー (Seiko) 8R系キャリバー (プロスペックス スピードタイマーなど)
- パテック フィリップ (Patek Philippe) Cal.CH 28-520
まさに、私(momomo)が愛するような「技術力は超一流」なブランドの名機が並びますね。これぞ「知る人ぞ知る名門」の技術力です。
その仕組みは、水平クラッチが「自転車のギア」だとすれば、垂直クラッチは「自動車のマニュアルクラッチ」に近いイメージです。
ムーブメントの中には、常に回転している動力源(四番車に連動)のディスクがあります。クロノグラフのスタートボタンを押すと、クロノグラフ秒針につながる、もう一枚のディスク(摩擦車)が、「垂直(上から)」に降りてきて、動力源のディスクに「圧着」されます。
水平クラッチが「歯車(点)」で動力を伝えるのに対し、垂直クラッチは「ディスクの摩擦(面)」で動力を伝えるのです。これが決定的な違いを生みます。
垂直クラッチのメリットと技術的優位性
垂直クラッチが「動かしっぱなしOK」と言われる理由は、その圧倒的な技術的優位性にあります。水平クラッチの弱点をことごとく潰してきているんです。
1. スタートが超スムーズ(針飛びゼロ)
最大のメリットがこれです。水平クラッチのように歯車同士が「ガシャッ」と噛み合うわけではないので、スタート時に秒針がカクッと飛ぶ「針飛び(ジャダー)」が原理的に発生しません。スッと滑らかに動き出します。見ていて非常に気持ちがいいですよ。
2. 摩耗が(ほぼ)ない
動力伝達は「面」で行われるため、水平クラッチのような「歯車の削り合い」のような深刻な摩耗が発生しません。「摩擦」と聞くと「それも摩耗するのでは?」と思うかもしれませんが、常時接続(圧着)されている状態は、摩擦が「発生し続けている」のではなく、単に「接続されている」状態です。そのため、常時作動を前提に設計されています。
3. 負荷変動が極めて小さい
これが「動かしっぱなしOK」の最大の根拠です。クロノグラフを作動させた時(圧着)と、停止させた時(解放)の、ムーブメント全体への負荷の「差」がほとんどありません。
負荷が小さいということは、パワーリザーブの低下や、時計の精度(テンプの振り角)への悪影響が最小限に抑えられることを意味します。メーカーも、この負荷の小ささを技術的なアピールポイントにしていることが多いですね。



垂直クラッチは、まさに「中央の秒針を動かしたい」というオーナーの美的な要求に対し、時計メーカー側からの完璧な「工学的回答」なんです。メーカー自身が「常時作動OK」を前提に設計している、あるいはそれを許容する耐久性を持たせています。例えば、ロレックスはデイトナのCal.4130について、その堅牢な垂直クラッチ機構を誇らしげに説明しています。このタイプの時計であれば、クロノグラフ秒針を「常用の秒針」として動かしっぱなしにしても、機械的にまったく問題ありません。むしろ、そのために作られた機構とも言えます。



なるほど!技術の進歩が悩みを解決してくれたんですね。さすがデイトナやB01…
水平・垂直クラッチの見分け方
「じゃあ、自分の時計はどっちなんだ?」という見分け方ですよね。ここが一番知りたいところだと思います。
正直なところ、ムーブメントの型番を調べずに外見から100%見分けるのは難しいですが、いくつかのヒントがあります。
ヒント1:スタート時の「針飛び」で判断する(最有力)
これが一番分かりやすい「かも」しれない方法です。クロノグラフをスタートさせた瞬間をよーく観察してください。
- 水平クラッチの可能性・高
中央の秒針が「カクッ」とわずかに飛んだり、ブルッと震えたり(針飛び・ジャダー)してから動き出す。歯車が噛み合う瞬間のショックです - 垂直クラッチの可能性・高
何のショックもなく「スーッ」と滑らかに動き出す。針飛びが全く見られない
ただし、これは絶対ではありません。水平クラッチでも調整が完璧なものは針飛びが小さい場合もありますし、個体差もあります。
ヒント2:ムーブメントの型番で調べる(一番確実)
結局、これが一番確実です。時計の仕様書、保証書、あるいはネット検索で、搭載ムーブメントの型番(例:「Cal. 7750」や「Cal. B01」など)を調べてください。
「(型番) 垂直クラッチ」などで検索すれば、その機構がどちらを採用しているか、ほぼ特定できます。例えば「Cal. 7750」なら水平クラッチ、「Cal. B01」なら垂直クラッチ、とすぐに分かります。
ヒント3:ムーブメントの設計年度や価格帯で推測する
Valjoux 7750(1973年開発、1974年発表)に代表される、古くからある汎用ムーブメントの多くは水平クラッチです。一方、2000年代以降に開発された比較的新しい自社製ムーブメント(特に高級機)は、垂直クラッチを採用する傾向が強いですね。
- 「不明な場合は、動かさない」が鉄則
- いろいろヒントを挙げましたが、一番大事なのはこれです
- もしあなたの時計がシースルーバック(裏蓋がガラス)でも、内部の機構を見て「あ、これは水平だ」と判断できる人はかなりのマニアです。普通は分かりません
- 確信が持てない場合は、安全策をとって「あなたの時計は水平クラッチ(=動かさない)」と見なしておくのが、時計にとっては最も優しく、あなたの財布にとっても最も安全な選択かなと思います
やってはいけない絶対的禁忌操作
さて、ここまで「動かしっぱなし」の是非について話してきましたが、これとはまったく別に、ムーブメントの種類(水平・垂直・クォーツ)を問わず、すべてのクロノグラフで絶対にやってはいけない「禁忌の操作」があります。
これをやると、一発で壊れます。本当に、一発で。
それは、「クロノグラフが作動中(秒針が動いている最中)に、リセットボタン(通常4時位置)を押す」ことです。
クロノグラフの機構は、通常2時位置が「スタート/ストップ」、4時位置が「リセット」ですよね。
この「リセット」ボタンは、クロノグラフ秒針を強制的に12時位置(ゼロ)に戻すためのボタンです。内部では、リセットハンマーという部品が、ハートカムというハート型の部品を叩いて、強制的にゼロ位置に戻す仕組みになっています。
- なぜダメなのか? 車で例えると…
- リセットボタンを押すということは、「リセットハンマーを振り下ろす」ということです
- クロノグラフが「停止」している時は、ハートカムも止まっていますから、ハンマーが「コン」と叩いて所定の位置に戻すだけです。問題ありません
- しかし、クロノグラフが「作動中」にリセットボタンを押すとどうなるか
- 「高速で回転しているハートカム」に向かって、「リセットハンマーを叩きつける」ことになります
- これは、車で例えるなら、時速100kmで前進中にいきなり「R(リバース)」ギアに叩き込むようなものです
- 結果は? 想像通り、機構の即時破損です。リセットハンマーが曲がるか折れるか、ハートカムが欠けるか。いずれにせよ、内部の精密な歯車やレバーに深刻なダメージを与え、針がゼロに戻らなくなったり、そもそも動かなくなったりします
これも当然、「故障修理」となり高額な費用がかかります。絶対に、絶対にやらないでください。
クロノグラフの正しい操作手順は、鉄のルールとして守ってください。
- START(2時位置ボタンで計測開始)
- STOP(同じ2時位置ボタンで運針を完全に停止させる)
- RESET(停止したのを確認してから、4時位置ボタンで針をゼロに戻す)
これだけは、時計を壊さないために絶対のルールとして覚えておきましょう。(※フライバック機能という特殊な例外もありますが、それはまた別のお話です)
総括:クロノグラフ秒針動かしっぱなし問題
さて、「クロノグラフの秒針を動かしっぱなしにして良いか」という問題。その答えは、ご覧の通り「時計の機構による」という、時計好きにとっては非常に興味深い結論になりました。
「王道を避ける美学」を持つ私(momomo)としては、この「機構の違い」こそが時計の魅力だと感じています。
なぜこのブランドは水平クラッチを使い続けるのか?(堅牢性、コスト、伝統の維持)
なぜあのブランドは莫大なコストをかけて垂直クラッチを自社開発したのか?(耐久性、精度、そしてオーナーの「動かしたい」という心理への回答)
この問題を技術的な視点で深掘りすると、あなたの愛機がどのような「設計思想」で作られたのかが見えてきます。それは、時計メーカーが技術の粋を集めて、それぞれの時代に出した「答え」でもあります。
水平クラッチ(例:Valjoux 7750)の時計は、「計測時のみ動かす」のが正しい使い方。その設計思想に反して常時作動させるのは、時計へのリスペクトを欠いた「虐待」になってしまいます。
一方で、垂直クラッチ(例:Rolex 4130, Breitling B01)の時計は、「常時作動OK」というのがメーカーの答えです。その時計を手に入れたオーナーは、中央の秒針が動く「生命感」を、何の気兼ねもなく享受する権利がある、というわけです。
ただ「壊れる/壊れない」という表層的な話ではなく、そのムーブメントが持つ「技術力や歴史に対する深いリスペクト」を持って接すること。
その設計思想をリスペクトして正しく使うことが、時計と長く付き合う一番の秘訣じゃないかな、と私は思いますよ。



最後に、今回の記事内容のポイントをまとめます。
- クロノグラフ秒針を動かしたいのは「中央の針が止まって寂しい」という美的な心理から
- クォーツ式を動かしっぱなしにすると電池寿命が激減し「液漏れ」のリスクが高まる
- 機械式は共通してパワーリザーブが低下する
- NGなのは「水平クラッチ」方式で、Valjoux 7750などが代表的
- 水平クラッチは設計上、宝石のない軸受けがあり、常時作動で金属粉が飛散しムーブ全体を破壊する
- OKなのは「垂直クラッチ」方式で、ロレックスのデイトナやブライトリングのB01などが採用
- 垂直クラッチは設計思想として常時作動を許容しており、摩耗や負荷が最小限
- 見分け方の一つは、スタート時の「針飛び(ジャダー)」の有無
- 機構を問わず「作動中のリセットボタン」は即時破損につながる絶対的禁忌である
今回は、クロノグラフの秒針を動かしっぱなしにして良いか、という技術的な問題を解説しました。「水平クラッチ」と「垂直クラッチ」という機構の違いによって、その答えが全く異なることをご理解いただけたのではないでしょうか。
「壊れるからダメ」と一括りにするのではなく、ムーブメントの設計思想を理解して正しく使うことが、時計愛好家の嗜みと言えそうですね。
クロノグラフの機構に興味を持たれた方は、時計の「ムーブメント」そのものについて解説した記事も参考になるかもしれません。
また、今回のテーマである「クロノグラフ」は、まさに私が愛する「知る人ぞ知る名門」の技術力が試される分野でもあります。私がなぜロレックスやオメガだけでなく、ブランパンやユリスナルダンといったブランドに惹かれるのか、その理由を綴った記事にも興味を持たれるかもしれません。








