日本が世界に誇るセイコーグループの中でも、名実ともに頂点に位置するラグジュアリーブランド、それが「クレドール(Credor)」です。しかし、このブランド名を聞いてパッと思い浮かぶイメージは、人によって大きく異なるのが面白いところなんです。ある人は「雲の上の存在」と崇め、またある人は「昔おじいちゃんが着けていた時計」と懐かしむかもしれません。
そして今、あなたがこの記事に辿り着いたということは、検索窓に「クレドール」と打ち込んだ際、サジェスト機能が提案してきた「人気ない」「ダサい」「後悔」といった、あまりにも不穏なキーワードたちに不安を覚えたからではないでしょうか?
「数百万円もする高級時計を買おうとしているのに、世間の評判が悪かったらどうしよう…」
「資産価値が暴落して、買った瞬間に損をするのは嫌だ…」
その気持ち、痛いほどよく分かります。高級時計は単なる道具ではなく、自分のステータスや審美眼を証明するアイテムでもありますから、世間の評価が気になるのは当然です。でも、ちょっと待ってください。もし、その「不人気」というレッテルが、単なる大衆的な誤解や、過去のイメージの残像に過ぎないとしたら?
実は今、世界の時計愛好家の間では、クレドールこそが「上がり(Goal)の時計」として熱狂的な注目を集めていることをご存知でしょうか。ロレックスやパテック・フィリップを知り尽くした玄人が、最後に辿り着く境地。それがクレドールなのです。
- なぜ技術力世界一とも言われるクレドールが「人気がない」と言われてしまうのか、その歴史的・構造的な理由
- 「おじさんくさい」という世間のイメージと、実際に手に取った時の洗練されたデザインとの驚くべきギャップ
- 購入前に絶対に知っておくべきリセールバリューの冷徹な現実と、それでも買う価値があると言える論理的根拠
- 世界中の時計コレクターが「スイスを超えた」と絶賛するマイクロアーティスト工房の狂気的な職人技術の全貌
この記事では、長年時計業界の動向をウォッチし続けてきた私の視点から、忖度なしでクレドールの真実を解き明かします。なぜ人気がないと言われるのか、その真相を知った時、あなたはきっと「人気がないこと」こそが最高の贅沢であると気づくはずです。
クレドールが人気ないと言われる理由と評判の真偽

まずは、誰もが気になっているネガティブな噂の真相から、逃げずに切り込んでいきましょう。「火のない所に煙は立たない」と言いますが、クレドールが一部で不評を買っているのには、確かにいくつかの構造的な要因が存在します。それが現在の製品の品質によるものなのか、それとも過去の亡霊によるものなのか。その背景を深く掘り下げてみます。
おじさんくさいというデザイン評価やダサい噂は本当か

インターネット上の掲示板やSNS、あるいはYahoo!知恵袋などを見ていると、「クレドールはおじさんっぽい」「デザインが古臭くてダサい」といった、かなり辛辣な意見を目にすることがあります。これから数十万円、あるいは数百万円を支払って一生モノの時計を買おうとしている方にとって、これほど不安を煽る言葉はありませんよね。
この「おじさんくさい」というイメージ、一体どこから来ているのでしょうか? 実はその元凶の多くは、1980年代から90年代初頭にかけてのバブル経済期に作られたモデルたちにあるんです。
当時の日本は好景気に沸いており、時計のデザインも「派手=正義」という時代でした。クレドールもその例に漏れず、18Kイエローゴールドとステンレスのコンビネーション、ダイヤモンドをあしらったベゼル、そして独特の幾何学模様のブレスレットなど、非常に装飾的で煌びやかなモデル(例えば「パシフィーク」や初期の「シグノ」など)を大量に世に送り出しました。これらは当時、企業の役員や成功者の手首を飾り、まさに「ステータスの象徴」だったのです。
しかし、時代は変わりました。現在はロレックスのサブマリーナーやデイトナに代表されるような、厚みのある「ラグジュアリー・スポーツ(ラグスポ)」や、シンプルで機能美を追求したデザインがトレンドの主流です。今の30代、40代の感覚からすると、かつてのクレドールの「薄くて、金ピカで、ブレスレットが複雑な時計」は、どうしても「一昔前の偉い人が着けていた時計」、つまり「おじさんの時計」として映ってしまいがちなのです。
- ここが誤解のポイント!
多くの人が語る「クレドールはダサい」という意見は、現行モデルを見た上での評価ではなく、実家の引き出しに眠っている30年前の時計や、リサイクルショップに並ぶ古いモデルを見た印象に基づいているケースが非常に多いのです。
では、現代のクレドール(現行モデル)はどうなのか? これは声を大にして言いたいのですが、全くの別物です。
例えば、主要ラインである「リネアルクス(Linealx)」シリーズを見てください。水や氷をモチーフにしたというそのデザインは、金属とは思えないほど滑らかな曲線を描き、鋭すぎず、かといって甘すぎない、絶妙なバランスで構成されています。グランドセイコーが「直線の美」なら、クレドールは「曲線の美」。そこには古臭さなど微塵もなく、むしろ欧州のハイブランドも真似できないような、日本的な色気と洗練が宿っています。
もしあなたがネットの画像だけで「なんとなく古そう」と判断しているなら、それはあまりにも勿体ないことです。ぜひ一度、百貨店の時計売り場や専門店(セイコーハウス銀座など)に足を運び、実物をその目で確認してみてください。ガラスケース越しに見るだけでも、その仕上げの美しさとオーラに、「ネットの評判なんて当てにならないな」と実感していただけるはずですよ。
MOMOMO昔のイメージだけで判断しちゃダメ!今のクレドールは、大人の色気を纏った最高にセクシーな時計に進化してるんです。
買って後悔しないためのリセールバリューと資産価値
高級時計を購入する際、避けて通れないのが「資産価値」や「リセールバリュー(再販価値)」の問題です。現代の時計選びにおいて、「買って楽しむ」だけでなく「売る時に損をしない」ことが重要な基準になっているのは事実です。この点において、クレドールはどうなのでしょうか。
結論から申し上げますと、クレドールのリセールバリューは、ロレックスやパテック・フィリップ、あるいは一部のグランドセイコーと比較すると、厳しい(低い)のが現実です。これを隠して「資産価値も抜群です!」などと言うつもりはありません。
具体的にどれくらい違うのか、ざっくりとしたイメージをお伝えしましょう。
| ブランド | リセールバリュー(換金率)の傾向 | 主な理由 |
|---|---|---|
| ロレックス | 非常に高い (定価以上になるモデルも多数) | 世界中で通貨のように扱われる圧倒的な需要と流動性。 |
| グランドセイコー | 比較的安定 (定価の50%〜70%程度) | 近年グローバル化に成功し、海外需要が増加しているため。 |
| クレドール | モデルによるが低め (定価の30%〜50%程度が多い) | 国内需要がメインで、海外での知名度が限定的だから。 |
なぜ、こんなにも差が出るのでしょうか? 最大の理由は「海外での知名度と需要の差」です。
中古時計の相場は、世界中のバイヤーが参加するオークションなどで決まります。ロレックスは世界中どこでも欲しい人がいますが、クレドールはまだ「知る人ぞ知る日本のブランド」という立ち位置。需要の母数が少なければ、当然買い取り価格も強気にはなれません。
特に、定価数十万円のレディースモデルや、18Kゴールドを使ったドレスウォッチは、素材としての金の価値はあっても、「ブランド代」としてのプラス査定が付きにくい傾向にあります。「買った時は50万円だったのに、売る時は15万円と言われた…」なんていう悲劇も、残念ながら起こり得ます。
- ただし、例外があります!
マイクロアーティスト工房で作られる「叡智(Eichi)」シリーズや、希少な限定モデルに関しては話が別です。これらは生産本数が極端に少なく、世界中の富裕層コレクターが血眼になって探しているため、定価に近い価格、あるいはプレミア価格で取引されることもあります。
ここでお伝えしたいのは、「リセールが悪い=悪い時計」ではないということです。
リセールバリューというのは、あくまで「他人からの評価額」です。もしあなたが、「数年で買い替えるつもり」だったり、「投資目的」で時計を買うなら、クレドールは正直おすすめしません。ロレックスを買った方が幸せになれるでしょう。
しかし、「一生モノとして使い倒す」「子供や孫に譲る」「自分が惚れ込んだ工芸品を手元に置きたい」というスタンスであれば、市場の相場など関係ありませんよね。むしろ、中古市場で安くなっているということは、「最高品質の時計を、適正価格以下で手に入れられるチャンス」とも捉えられるのです。
資産価値という数字のマジックに振り回されず、「その時計が自分に何をもたらしてくれるか」という本質的な価値を見極めることが、クレドール選びで後悔しないための最大の秘訣かなと思います。
グランドセイコーとの違いや棲み分けの難しさ
「グランドセイコー(GS)とクレドール、同じセイコーの高級時計だけど、結局どっちを買えばいいの?」
これは、多くの人が直面する悩みであり、同時にクレドールの人気が伸び悩む一因でもあります。同じ会社の中に、強力なライバルが存在するわけですから。
かつては、一つの時計の文字盤に「SEIKO」と「CREDOR」の両方のロゴが入っていた時期もありました。これが消費者に「クレドール=高いセイコー」という認識を植え付けてしまい、ブランドとしての独立性を曖昧にしてしまった歴史があります。GSが2017年にセイコーブランドから完全に独立し、文字盤から「SEIKO」ロゴを消してグローバルブランドへと舵を切ったのに対し、クレドールはそのポジショニングがやや分かりにくいままでした。
しかし、両者の「設計思想(フィロソフィー)」は、実は水と油ほどに異なります。
- グランドセイコー(GS)の哲学
「THE BEST OF BASIC」
実用時計の最高峰を目指す。精度、視認性、耐久性を極め、ビジネスシーンでバリバリ使う「道具」としての究極形。デザインは直線的で、ザラツ研磨による歪みのない平面が特徴。まさに「武士の刀」のような鋭さ。 - クレドール(Credor)の哲学
「CRÊT D’OR(黄金の頂き)」
ドレッシーさと芸術性を目指す。薄さ、軽さ、肌触り、そして工芸的な装飾美を追求。フォーマルな場や、ゆったりとした時間を過ごすための「装身具」としての究極形。デザインは曲線的で、日本的な柔らかさや余白が特徴。まさに「京友禅」のような優美さ。
現代のビジネスパーソンにとって、防水性が高く、頑丈で、日付表示も見やすいグランドセイコーの方が、日常使いのパートナーとして分かりやすく魅力的であることは否定できません。これがGSに人気が集中する理由です。
一方で、クレドールは「機能スペック」で勝負していません。「何メートル潜れるか」とか「耐磁性能がいくらか」といった数値競争から降りた場所にある、「感性領域」で勝負しているのです。
もしあなたが、スペック表を睨めっこして時計を選んでいるなら、GSを選んだ方が満足度は高いでしょう。でも、もしあなたが「スペックには表れない美しさ」や「袖口への収まりの良さ」「工芸品としてのオーラ」を求めているなら、GSでは満たされない何かがクレドールにはあります。
GSが「動」なら、クレドールは「静」。この違いを理解できるかどうかが、クレドールを選ぶ分かれ道になります。



どちらが優れているかじゃなく、求める美学が違うってことですね。自分の感性に素直になることが大切です。
中古市場で価格が安いモデルが存在する背景と注意点
フリマアプリや中古時計店を覗いてみると、驚くべき光景を目にすることがあります。かつて定価数十万円もしたはずのクレドールが、3万円とか5万円といった、ちょっとしたファッションウォッチ並みの価格で投げ売りされているのです。
「腐ってもクレドールが、こんなに安いの? もしかして偽物? それともボロ時計?」
そう疑ってしまうのも無理はありません。しかし、これらが安いのには、ちゃんと論理的な理由があるんです。そして、その理由さえ理解していれば、これらは「地雷」ではなく「お宝」に変わる可能性だってあります。
中古相場が崩れている主な理由は、以下の3点に集約されます。
- バブル期の流通量が多すぎる(供給過多)
1980年代から90年代にかけて、クレドールは爆発的に売れました。当時の「パシフィーク」や「リネアクルバ」といったモデルが、今になって大量に中古市場に還流してきているのです。需要に対して供給が多すぎるため、どうしても価格競争が起きて値崩れしてしまいます。 - サイズ感とデザインのギャップ
先ほどもお話ししましたが、当時のメンズモデルはケース径が32mm〜34mm程度と、現代の基準(38mm〜42mm)からするとかなり小ぶりです。今の男性が着けると「レディースかな?」と思われてしまうサイズ感のものが多く、需要が低いのが現状です。 - メンテナンスの課題(ここが最重要!)
古いクオーツモデルの中には、すでにメーカーの部品保有期間が終了しており、修理受付が終了しているものがあります。特に回路ブロックなどの電子部品が壊れてしまうと、街の時計屋さんでも直せないケースがあり、「動かないジャンク品」として安値で取引されることが多いのです。
- 中古購入時の絶対的な注意点
安価な中古クレドールを狙うなら、必ず「ブレスレットの長さ」を確認してください。昔の時計は、前の持ち主の手首に合わせて短く調整されていることが多く、余りコマが付属していないと、買ったはいいけど腕に入らない…という悲劇が起きます。古いモデルのコマだけを入手するのは、時計本体を見つけるより難しいですよ。
逆に言えば、サイズ感が好みで、状態が良く、コマも足りている個体を見つけられれば、18Kゴールドベゼルを使ったような高品質な時計を、驚くような低価格で手に入れることができます。この「安さ」がブランド全体のプレミアム感を薄れさせ、「人気がない」ように見せてしまっている側面はありますが、賢い買い手にとっては「狙い目」の市場であることは間違いありません。
クオーツモデルが多いことがブランド評価に与える影響
時計好きが集まると、必ずと言っていいほど「機械式(メカニカル)至上主義」の空気が流れます。「クオーツなんて電池で動く家電でしょ?」「やっぱり歯車とゼンマイで動く機械式にこそロマンがあるよね」という価値観です。
現在の高級時計市場のトレンドは、圧倒的に「機械式」です。パテック・フィリップやオーデマ・ピゲといった雲上ブランドが評価されるのも、複雑な機械式ムーブメントを作れるからです。
そんな中で、クレドールのラインナップを見てみると、実はかなりの割合を「クオーツモデル」が占めています。
もちろん、クレドールに搭載されているクオーツ(例えば8J系や、レディースに使われる4J系など)は、そこら辺の安物とは訳が違います。年差±10秒という驚異的な精度を誇り、温度補正機能がついていたり、金属製の頑丈な輪列を使っていたりと、中身はとんでもなくハイレベルなものです。まさに「技術屋・セイコー」の意地が詰まったムーブメントと言えます。
しかし、50万円、100万円という大金を支払う層の心理としては、どうしてもこう思ってしまうんです。
「その金額を出すなら、機械式のオメガやIWCを買うよ」
悲しいかな、クオーツというだけで「資産価値が低い」「趣味性が低い」と判断され、選択肢から外されてしまう。クレドールのクオーツは、薄くて、軽くて、いつでも正確という、腕時計としての「機能的な正解」を追求しているのですが、それが今のラグジュアリー市場が求める「嗜好品としてのロマン」や「重厚感」と少しズレてしまっている。これが「モノはいいのに人気が出ない」と言われる最大のジレンマなのかなと思います。



便利さで言えばクオーツ最強なんだけどね。でも高級時計には不便なロマンを求めちゃうのが男心ってやつかもね。
人気ないどころか世界が注目するクレドールの魅力


ここまで、クレドールが抱えるネガティブな側面や、市場での立ち位置の難しさについて正直にお話ししてきました。「やっぱり買うのはやめようかな…」と心が折れかけた方もいるかもしれません。
でも、ここからが本番です。ガラリと視点を変えましょう。
実は今、世界中の「本当に時計を知り尽くした変態的なコレクター(褒め言葉です)」たちが、熱い視線をクレドールに注いでいるのをご存知でしょうか?
なぜ彼らは、ロレックスでもパテックでもなく、あえて「人気がない」はずのクレドールに熱狂するのか。そこには、大衆評価など吹き飛ばすほどの、圧倒的な技術と美学の世界が広がっています。
スイス勢を凌駕するマイクロアーティスト工房の技術


クレドールを語る上で、絶対に外してはならない聖地があります。長野県塩尻市、セイコーエプソンの敷地内にひっそりと存在する「マイクロアーティスト工房」です。
ここは、セイコーグループの中でも選りすぐりの、まさに「時計作りの仙人」のような職人たちが集まる場所です。設立のきっかけは、現代最高の独立時計師と称されるフィリップ・デュフォー氏から、スイス伝統の「手作業による仕上げ(フィニッシング)」の指導を受けたことでした。
彼らが目指したのは、機械生産による効率化ではありません。「人の手でしか生み出せない美しさ」の追求です。
- ここが狂気的!マイクロアーティスト工房の凄さ
- 手作業による面取り:1ミリにも満たない部品の角を、植物の茎(ジャンシャン)を使って手作業で磨き上げます。顕微鏡で見ても歪みのない、完璧な鏡面仕上げは「ブラックポリッシュ」と呼ばれます。
- 音色の追求:「ミニッツリピーター」や「ソヌリ」といった、音で時刻を知らせる超複雑時計を自社開発。その音色は、日本の風鈴や仏具の「おりん」を参考に調整され、東洋的な澄んだ響きを持っています。
- 年間生産数:あまりにも手間がかかるため、年間で作れる時計はわずか数十本。量産品とは次元の違う工芸品です。
世界的な時計メディアである「Hodinkee」なども、この工房の仕事ぶりを度々特集し、「現在のパテック・フィリップやランゲ&ゾーネの量産モデルよりも、マイクロアーティスト工房の仕上げの方が上だ」と評価することさえあります。
知る人ぞ知る、世界最高峰の技術集団が日本にある。そしてその技術の結晶が「クレドール」というブランド名で世に出ている。これって、日本人として誇るべき事実だと思いませんか?
叡智IIに見る引き算の美学と職人の手仕上げ


マイクロアーティスト工房の実力を世界に知らしめた最高傑作、それが「叡智(えいち)II」です。この時計、写真で見ると拍子抜けするほどシンプルです。ただの白い文字盤に、3つの針があるだけ。カレンダーすらありません。
「これで600万円以上するの?(※現在の定価は税込7,865,000円)」と驚く人もいるでしょう。しかし、実物をルーペで覗き込んだ瞬間、その価格の意味を理解して絶句することになります。
- 磁器(ポーセリン)ダイヤル:
文字盤は、単なる塗装やエナメルではありません。特別に調合された磁器で作られています。透明感のある、深く温かみのある白は、100年経っても色褪せることがありません。 - 手描きのロゴとインデックス:
ここが一番の驚きポイントです。文字盤にある「CREDOR」のロゴや数字のインデックス。これ、プリントじゃないんです。北村氏をはじめとする熟練の職人が、極細の筆を使って、焼成された磁器の上に一本一本手描きしているんです。
信じられますか? 何百万円もする工業製品のロゴが手描きなんて。少しでも筆が狂えば廃棄です。この緊張感と人間味こそが、叡智IIの魂なのです。 - スプリングドライブの静寂:
搭載されるキャリバー7R14は、手巻きのスプリングドライブです。「トルク・リターン・システム」という独自機構を搭載し、秒針は音もなく滑らかに流れます(スイープ運針)。「チクタク」という音がしないこの静寂は、禅の世界にも通じる日本の美意識そのものです。
余計なものを全て削ぎ落とし、本質だけを極限まで磨き上げる「引き算の美学」。海外の富裕層が、何年も待ってでもこの時計を手に入れたがる理由がここにあります。彼らは時計を買っているのではなく、「日本の精神性」を買っているのかもしれません。



シンプルだからこそ誤魔化しが効かない。一つ一つのディテールに宿る狂気的なまでのこだわりが、見る者を魅了するんですね。
日本人の腕に馴染む薄型ドレスウォッチの装着感
海外ブランドの高級時計をしていて、「重いな」「厚いな」「シャツの袖に引っかかるな」と感じたことはありませんか? 欧米人の太い手首に合わせて作られた42mm径、厚さ14mmといった時計は、我々日本人の平均的な手首には、正直オーバースペックなことがあります。
クレドールは、基本的に「日本人の体格とライフスタイル」に最適化されて設計されています。特にドレスウォッチのラインナップは、「薄さ(ウルトラスリム)」へのこだわりが凄まじいです。
例えば、機械式ムーブメント「キャリバー68系」を搭載したモデル。このムーブメントの厚さはわずか1.98mm。500円玉くらいの厚みしかありません。これを搭載した時計は、厚さ6mm〜7mm程度に収まります。
ケース径も36mm〜38mm前後と、日本人の手首に吸い付くようなジャストサイズ。シャツの袖口にスッと収まり、着けていることを忘れるほど軽やかです。
「デカ厚」時計に疲れた大人が最後に辿り着くのが、この「極上の装着感」です。長時間着用するビジネスやフォーマルの場において、このストレスフリーな着け心地は、何物にも代えがたい実用的なメリットですよ。
50周年で注目されるクオンやジェンタ復刻の話題
「クレドールは伝統的すぎてつまらない」なんて思っていませんか? いえいえ、2024年にブランド誕生50周年を迎えたクレドールは、今まさに攻めの姿勢に転じています。
その象徴が、新シリーズ「Kuon(クオン)」の登場です。
これまで「貴金属(ゴールド・プラチナ)」が中心だったクレドールが、満を持して「ステンレススティール(SS)」モデルを投入してきました。
コンセプトは「久遠(くおん)」。流れるような曲線のケースデザインに、漆のような質感を持つ特別な仕上げの文字盤。そして何より、ブレスレットの装着感が抜群に良い。価格も132万円と、ロレックスのデイトジャストやオメガ、そしてグランドセイコーと真っ向勝負する価格帯に切り込んできました。
さらに、時計ファンをざわつかせているのが、あの伝説の時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタ氏がかつてデザインした「ロコモティブ(Locomotive)」の復刻です。
パテックのノーチラスやオーデマ・ピゲのロイヤルオークを手掛けた「時計界のミケランジェロ」が、1979年にクレドールのために残した遺産。六角形のビス、一体型ブレスレットといった、現代のトレンドである「ラグスポ」の要素を完璧に備えたこのモデルが復活したことは、世界的なニュースとなりました。
これらの動きは、「クレドール=おじさんの時計」という古いイメージを一新し、新しい世代のファンを獲得しようとするブランドの本気度の表れです。今、クレドールは確実に「面白いフェーズ」に入っています。
他人と被らない孤高のステータス性と所有する喜び


最後に、逆説的ですが「人気がない」ことこそが、今の時代における最高のステータスであるというお話をさせてください。
都心の電車内やオフィスの会議室を見渡してみてください。ロレックスのサブマリーナー、オメガのスピードマスター、あるいはApple Watch。素晴らしい時計たちですが、「誰かと被る」確率は非常に高いですよね。
「高いお金を出して買ったのに、隣の席の新入社員も同じブランドの時計をしていた…」なんていう気まずい経験、避けたくありませんか?
そんな中で、あなたの手首にクレドールが巻かれていたらどうでしょう。
一見するとシンプルで控えめ。でも、見る人が見れば「おっ、叡智じゃないか」「その薄さは68系キャリバーだな」と、即座にあなたの審美眼の高さに気づきます。
「流行り廃りに流されない、自分自身の価値観を持っている人」
「ブランドのロゴではなく、本質的な品質にお金を払える大人」
クレドールを身につけるということは、周囲に対してそんな、静かですが強烈なメッセージを発することになります。誰かに自慢して承認欲求を満たすのではなく、自分の心を満たすために時計を着ける。そんな「孤高の贅沢」を味わえるブランドは、世界中探してもそう多くはありません。



本当に価値あるものは、必ずしも大衆に理解されない。それでいいんです。自分が心から惚れ込めるかどうか、それが全てですから。
総括:クレドールは人気ない評判を気にする必要なし
ここまで、クレドールの評判の裏側から、世界が認める真の価値までを詳しく見てきました。結論として言えるのは、ネット上の「人気がない」という言葉は、あくまで「大衆向けの商品ではない」という意味であり、「品質が低い」という意味では決してないということです。



最後に、今回の記事内容のポイントをまとめます。
- 人気がないと言われるのは知名度不足や過去のイメージが原因で品質は世界最高峰
- 「おじさんくさい」評判はバブル期のモデルへの評価であり現行品は洗練されている
- リセールバリューは確かにロレックス等に劣るが「一生モノ」なら関係ない
- 安価な中古品にはメンテナンスのリスクやサイズ感のクセがあるため注意が必要
- マイクロアーティスト工房の技術はスイスの雲上ブランドをも凌駕するレベル
- 「叡智II」の磁器ダイヤルや手書きロゴは工芸品としての価値が極めて高い
- 日本人の手首に特化した薄型設計と装着感は海外ブランドにはない魅力
- 「Kuon」やジェンタ復刻など50周年を機にブランドが再評価され始めている
- 他人と被らない「孤高のステータス」こそがクレドール最大のメリットである
今回は、クレドールが「人気がない」と言われる背景と、その裏にある世界最高峰の技術や美学について解説しました。
世間の評価やリセールバリューといった数字にとらわれず、本質的な価値を見極める審美眼を持つあなたにとって、クレドールはこれ以上ない「上がりの時計」となるはずです。

