「パルミジャーニ・フルリエの時計、どこに行っても買えないんですけど…いったいどうなっているんですか?」
最近、時計好きの知人や経営者仲間から、こんな相談を毎日のように受けるようになりました。きっとあなたも同じように、意を決して正規店を訪ねたのにショーケースは空っぽ、予約の話を切り出しても「現在はウェイティングリストへの登録も停止しておりまして…」と申し訳無さそうに断られ、肩を落として帰ってきた経験があるのではないでしょうか。
かつては「知る人ぞ知る」という言葉がぴったりな、少しマニアックで通好みなブランドだったパルミジャーニ・フルリエ。しかし、ここ数年で状況は激変しました。「トンダPF」の登場以降、その評価はうなぎ登りで、今やロレックスやパテック フィリップのスポーツモデルに次ぐ、世界的な入手困難ブランドの一つになってしまったのです。
でも、焦らないでください。この枯渇現象には、単なる一時的なブームや投機マネーの流入だけでは片付けられない、ブランド特有の「製造上の物理的な理由」が大きく関係しているんです。そして、その構造を正しく理解することで、闇雲にお店を回るのとは違う、賢いアプローチが見えてきますよ。
この記事では、なぜこれほどまでに入手困難なのかという裏事情から、2025年現在の日本市場で確実に手に入れるための具体的な戦略まで、時計業界の構造的な視点から詳しく解説します。
- パルミジャーニ・フルリエが入手困難になっている構造的な3つの理由
- 年間数千本という極めて限られた生産数が意味する希少性の正体
- 2025年オープンの銀座ブティックや有力店での購入攻略法
- 定価と中古相場のバランスから見る資産価値と後悔しない選び方
多くの人が「人気だから買えない」と諦めかけている中で、実は「買えない理由」を正しく理解している人だけが、理想の一本に巡り合えるチャンスを掴んでいます。この記事を読み終える頃には、あなたも「ただ待たされる客」から「価値を理解して選ばれる顧客」へとステップアップできているはずですよ。それでは、まずはその枯渇の真相から紐解いていきましょう。
なぜパルミジャーニ・フルリエは買えないのか?3つの構造的な理由

まずは、なぜこれほどまでに市場から姿を消してしまったのか、その背景にある事情を整理しておきましょう。単に「人気が出たから在庫がない」という表面的な話だけではなく、メーカーとしての「物理的に作れない事情」が大きく関係しているんです。
人気急騰の「トンダPF」とクワイエット・ラグジュアリーの台頭

パルミジャーニ・フルリエの状況が一変したのは、間違いなく2021年の「トンダPF」コレクションの発表が決定的なターニングポイントでした。
それまでのパルミジャーニといえば、創業者の修復師としての哲学が色濃く出た、クラシックでバロック的なデザインが主流でした。「すごい時計だとは思うけど、自分が着けるには少し渋すぎるかな…」と感じていた方も多かったはずです。ところが、元ブルガリの敏腕CEO、グイド・テレーニ氏の手によってリブランディングされたトンダPFは、そうしたイメージを完全に覆しました。
ブランドのフルネームロゴすら廃止し、極めてシンプルな「PF」エンブレムだけを配置。シャツの袖口にスッと収まる極薄のケース、そして絶妙な装着感を実現した統合型ブレスレット。これら全ての要素が、現代の富裕層が求めていたトレンドに見事に合致したのです。
- クワイエット・ラグジュアリー(Quiet Luxury)の象徴
パンデミック以降、これ見よがしにブランドロゴを主張するファッションが避けられる傾向が強まりました。「ロゴドン」よりも、素材や仕立ての良さで語る「静かなる贅沢」が好まれるようになったのです。
ロレックスやオーデマ ピゲのロイヤルオークのような「一目で数百万円と分かる時計」をビジネスシーンで着けることに、少し疲れや抵抗を感じ始めていた経営者やエグゼクティブたちが、こぞってパルミジャーニに流れ込みました。「分かる人にだけ、この良さが伝わればいい」という奥ゆかしさが、日本人の美意識にも深く刺さったんですね。結果として、これまで見向きもしなかった層までが殺到し、需要が供給を数倍、数十倍も上回る事態になってしまったわけです。
年間数千本という壁とヴォーシェ・マニュファクチュールの実情
「そんなに人気なら、工場を拡大して増産すればいいじゃないか」と不思議に思いますよね。でも、パルミジャーニ・フルリエには、簡単に増産できない構造的な理由があるんです。
それが、ブランドの心臓部であるムーブメント製造部門「ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ(VMF)」の特殊な事情です。実はVMFは、パルミジャーニのためだけに動いている工場ではありません。あのエルメス(VMFの株式の25%を保有しています)や、リシャール・ミルといった、超一流の外部ラグジュアリーブランドへも最高級のムーブメントを供給しているのです。
特にここ数年、エルメスの時計部門(「H08」など)が世界的に大ヒットしており、VMFへの発注量は激増していると言われています。つまり、パルミジャーニ・フルリエは、兄弟会社であるVMFの限られた製造ラインを、強力な外部クライアントたちとシェアしなければならない状況にあるのです。
創業者ミシェル・パルミジャーニ氏自身が過去のインタビューで「年産5000本程度の生産規模を維持していきたい」と語っていますが、業界アナリストの推計では実際の生産数は年間数千本規模とされています。これはロレックスの推定100万本とは比較にならない少なさですし、パテック フィリップの約7万本と比べても圧倒的に少ない数字です。
EMIRI独立時計師に近い規模感
年間数千本という数字は、世界中に正規店を持つブランドとしては極小の規模です。マニュファクチュールとしての設備は一流ですが、生産規模は独立系メゾンに近いのです。
工場をフル稼働させても、物理的にこれ以上作れない。これが「枯渇」の最大の理由であり、一朝一夕には解決できない問題なのです。
熟練職人が不足している文字盤製造と手仕上げの限界


さらに「買えない」状況に拍車をかけているのが、パルミジャーニ・フルリエの異常なまでの「品質へのこだわり」です。これが生産スピードの足かせになっています(良い意味で、ですが)。
トンダPFの実物をルーペで見たことはありますか? あの文字盤に施された「バーリーコーン(麦の穂)」と呼ばれるギョーシェ彫りの細かさは、人間の手仕事の限界に挑むようなレベルです。これらの外装部品は、グループ企業である「カドランス・エ・アビヤージュ」で作られていますが、あれほど微細なパターンを完璧な均一性で仕上げるには、熟練した職人の目と手が不可欠です。
また、ベゼルのあの独特な刻み(ローレット加工)もそうです。プラチナという硬くて粘りのある難しい素材を、専用の機械と職人の手感覚で加工していくのですが、これもまた量産には向かない工程なんですよね。
さらにムーブメント内部に目を向ければ、部品の角を削って磨く「面取り(アングラージュ)」も手作業で行われています。機械で自動的に作られる量産品とは、かかっている時間と情熱が桁違いなんです。
- 職人育成の難しさ
スイス時計業界全体で、こうした伝統的な装飾技法を持つ職人が不足しています。人を増やそうにも、一人前の職人が育つには5年、10年という歳月がかかります。「作りたくても、作れる人が足りない」というのが、メーカー側の偽らざる苦悩なのです。
つまり、私たちが直面している「買えない」という状況は、メーカーがわざと出荷を絞っているわけではなく、工芸品としての品質を維持するための物理的な限界点に達しているからだと言えます。
2025年オープンの銀座ブティックがもたらす流通の変化
ここで、これからの入手難易度を左右する重要なニュースについて触れておきましょう。2025年8月に東京・銀座7丁目にオープンした、ブランド初となる旗艦店「パルミジャーニ・フルリエ ブティック銀座」の存在です。
これまでは、百貨店の時計売り場や専門店に在庫が分散していましたが、この旗艦店のオープンにより、日本に入ってくる在庫の流れが大きく変わりました。希少なモデルや新作は、まずこの旗艦店に優先的に配分される傾向が強まっています。
「それなら、銀座に行けば買えるのでは?」と思うかもしれませんが、現実はそう甘くありません。むしろ、直営ブティックができたことで、ブランド側が「誰に売るか」をより厳格にコントロールできるようになったと考えるべきです。
ブティックでは、単に時計を売るだけでなく、ブランドの世界観を共有できる顧客との関係構築(リレーションシップ)を重視しています。転売目的の購入者を排除し、本当に長く愛用してくれるファンに時計を届けるため、一見客への販売ハードルは以前よりも高まっている可能性すらあります。
「お店に行けばなんとかなる」時代は終わり、「お店で信頼関係を作らないと売ってもらえない」時代に突入したと言えるでしょう。
特定の顧客層に支持されるYOSHIDAなどの有力正規店の存在
もう一つ、日本の時計市場特有の事情として忘れてはいけないのが、東京・幡ヶ谷にある「YOSHIDA(ヨシダ)」のような、超有力特約店の存在です。
YOSHIDAは、パルミジャーニ・フルリエだけでなく、オーデマ ピゲやパテック フィリップなどのトップブランドとも強固なパイプを持っています。その影響力は凄まじく、メーカーに別注をかけた「YOSHIDA限定モデル」が頻繁にリリースされるほどです。
実は、日本に入荷するパルミジャーニの在庫のうち、かなりの割合がこうした有力店の上顧客向けに流れているという現実があります。限定モデルなどは、一般の店頭に並ぶ前に、太客への案内だけで完売してしまうことも珍しくありません。
「地方の正規店に行っても全然モノがないのに、SNSを見ていると買えている人がいる」。その背景には、こうした太いパイプを持つ店舗と、そこで長年買い続けている顧客への「優先配分」という構造的な事情があるのです。
買えない状況を打破する入手戦略と気になる資産価値の真実


入手困難な理由は分かりました。でも、私たちが知りたいのは「じゃあ、どうすれば手に入るの?」という具体的な解決策ですよね。ここからは、2025年の現状を踏まえた実践的なアクションプランと、高額な買い物だからこそ気になる資産価値について、本音でお話しします。
正規店で予約や入荷待ちを成功させるための関係構築


まず大前提として、一番人気の「トンダPF マイクロローター」などを、初来店でいきなり買うのは、ロレックスのデイトナを買うのと同じくらい難しいと思ってください。正規店での購入を目指すなら、長期戦を覚悟した「関係構築」が必要です。
具体的には、銀座ブティックや正規販売店に通い、スタッフの方に「自分がなぜパルミジャーニを欲しいのか」という熱意を伝えることです。「在庫ありますか?」「ないです」で終わらせてはいけません。
- 服装や身なりを整え、ブランドへのリスペクトを示す(意外と重要です)
- 名刺を渡し、顧客リストへの登録をお願いする
- ブランドの歴史や、ミシェル・パルミジャーニ氏の修復技術への関心を語る
- 比較的手に入りやすいモデル(トンダPFスポーツなど)があれば、まず一本購入して実績を作る
特に「購入実績(ヒストリー)」を作ることは、遠回りに見えて最短のルートになることが多いです。一本購入することで「転売目的ではない優良な顧客」として認知され、次の入荷があった際に優先的に連絡をもらえる可能性がグッと高まるからです。
意外な穴場となる地方正規店や百貨店外商ルートの活用
東京や大阪の激戦区を避けて、地方の正規店を探すのも賢い戦略の一つです。
パルミジャーニ・フルリエの取扱店は全国に点在していますが、地方の老舗時計店では、都心ほど競争率が激化していないケースが稀にあります。旅行のついでに立ち寄ってみたり、誠意を持って電話で入荷状況を問い合わせてみる価値は十分にあるでしょう。丁寧な対応をすれば、遠方でもウェイティングリストに入れてくれるお店があるかもしれません。
また、もしあなたが百貨店の「外商カード」をお持ちなら、担当の外商員にリクエストを出すのが、実は最も強力な手段になり得ます。百貨店はブランドに対して強いバイイングパワーを持っています。「外商経由で頼んだら、数ヶ月待ちで手に入った」という話は、この業界ではよくある話です。使えるコネクションは全て使いましょう。



外商さんの力はやっぱり凄いんだね。担当さんに聞いてみる価値ありそう!
定価と中古相場の乖離から見る「後悔」しない選び方
「いつ買えるか分からないなら、中古でもいいか」と考える方もいるでしょう。ここで重要なのが、定価と中古価格(二次流通価格)のバランスを冷静に見ることです。
実はパルミジャーニ・フルリエの場合、ロレックスのように「定価の3倍、4倍」といった異常なプレミアム価格までは高騰していません。2025年現在、モデルによっては定価の1.1倍〜1.2倍程度、あるいは定価以下で未使用品が売られていることもあります。
例えば、定価400万円の時計が、中古市場で420万円で売られているとします。正規店で買うために何度も交通費を使って通い、1年以上待つ労力を考えれば、この差額は「時間を買うための手数料」として許容範囲だと思いませんか?
- 中古購入の注意点
ただし、保証書(ギャランティ)の日付には注意してください。パルミジャーニは購入後の登録で保証期間が延長されるサービスがありますが、中古で購入した場合の継承条件などは、販売店を通じてしっかり確認する必要があります。
「絶対に正規店で新品を」というこだわりがなければ、信頼できる中古時計店(コミット銀座や銀座ラシンなど)で、状態の良い個体を探すのも、精神衛生上とても良い選択肢だと思います。
投機ではなく「教養」として評価される将来の資産価値


高額な時計を買うとなると、どうしても気になるのが「買って損はしないか?」「将来高く売れるか?」という資産価値の面ですよね。
正直に申し上げます。パルミジャーニ・フルリエは、ロレックスのデイトナや、パテック フィリップのノーチラスのように、買った瞬間に数百万円の利益が出るような「投機商材」ではありません。もしリセールでの儲けを最優先するなら、他のブランドを選んだほうが良いでしょう。
しかし、時計愛好家の間での評価、いわゆる「教養としての価値」は極めて高いレベルにあります。「パルミジャーニを選んだ」という事実は、あなたの審美眼の高さを証明するパスポートになりますし、流行り廃りに左右されにくいため、長期的に見れば価値がゼロになるような暴落のリスクは低いです。
お金としての資産価値以上に、「この時計を選べるセンス」や「所有する満足感」という無形の資産を手に入れる。そんな感覚で付き合える人が、このブランドのオーナーにふさわしいのかもしれません。
繰り返される値上げとそれでも需要が落ちない背景
ご存知の通り、パルミジャーニ・フルリエも、原材料費の高騰やスイスフラン高の影響を受けて、毎年のように価格改定(値上げ)を行っています。
「そんなに値上げしたら客が離れるのでは?」と思うかもしれませんが、現実は逆です。むしろ「今のうちに買っておかないと、もっと高くなる」という心理が働き、駆け込み需要が発生しています。
それに、雲上ブランドのステンレスモデルが軒並み高騰する中で(例えばロイヤルオークは市場価格で数千万円になることも)、トンダPFのクオリティと仕上げのレベルを考えれば、今の価格(300万〜400万円台)でも「実はお買い得なのでは?」と判断する愛好家が多いのです。価格以上の価値がある、と市場が認めているからこそ、値上げ後も予約が絶えないわけですね。
購入前に知っておくべき維持費とメンテナンスの期間
最後に、手に入れた後のことも考えておきましょう。マニュファクチュールブランドである以上、メンテナンスは街の時計屋さんではなく、基本的にメーカー対応(パルミジャーニ・フルリエ・ジャパン経由)になります。
特にマイクロローターや複雑な機構を持つモデルの場合、3年〜5年に一度のオーバーホール料金は、それなりに高額(モデルによりますが10万円〜)になります。また、修理のためにスイス本国送りになれば、手元に戻ってくるまで数ヶ月、下手をすれば半年近くかかることもあります。
「ランニングコストがかかる」「修理に時間がかかる」。これらをデメリットと捉えるか、「愛車をガレージに入れて整備する時間」のように楽しめるか。余裕を持って付き合えるかどうかも、オーナーになるための資質と言えるかもしれませんね。
総括:パルミジャーニ・フルリエが買えないのは「本物」の証
パルミジャーニ・フルリエが買えない状況には、単なる人気だけではない、大量生産を拒み、職人の手仕事を守り続けるブランドの矜持が隠されていましたね。



最後に、今回の記事内容のポイントをまとめます。
- 買えない最大の理由は、年間数千本という極めて限られた物理的な生産能力にある
- ヴォーシェ(VMF)はエルメス等も抱えており、急な増産ができない構造である
- 2025年の銀座ブティックオープンにより、一見客よりも顧客との関係性が重視されるようになった
- 入手には、正規店での長期的な関係構築か、百貨店外商などの太いパイプの活用が有効
- 中古市場は極端なバブルではないため、時間を買う意味で選択肢に入れるのも賢い戦略
- 投機的な価値よりも、教養やセンスとしての資産価値が高いブランドである
今回は、パルミジャーニ・フルリエがなぜこれほどまでに入手困難なのか、その構造的な理由と2025年最新の入手戦略について解説しました。単なる一時的なブームではなく、職人の手仕事による物理的な生産限界と、ブランドの高い美意識が背景にあることを理解いただけたのではないでしょうか。すぐに手に入らないからこそ、手にした時の喜びはひとしおです。
もし、パルミジャーニ・フルリエのように「知る人ぞ知る名作時計」や、資産価値だけでない時計の魅力に興味をお持ちなら、以下の記事も参考になるでしょう。



